2014年08月19日

「グレート・ビューティー 追憶のローマ」 偉大な美を求め 街をさまよう作家

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 米アカデミー賞、米ゴールデン・グローブ賞、英アカデミー賞の最優秀外国語映画賞を獲得するなど、世界的に高く評価された「グレート・ビューティー 追憶のローマ」。初老の作家が「偉大な美」を求め、歴史ある街をさまよう物語だ。

 作家でジャーナリストのジェップ・ガンバルデッラ(トニ・セルビッロ)は65歳。二十代で発表した小説が高く評価され、富と名声を手にしていた。今は有名人や芸術家へのインタビュー記事を雑誌に寄稿する日々。文壇の人々にも一目置かれ、文化人として才能と知性を広く認められていた。

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 人生の折り返し点を過ぎた今も、夜な夜なローマの街をさまよい、パーティーやレセプションに出現。美女やセレブリティーに囲まれ、酒を飲んで乱痴気騒ぎに興じ、とりとめのない会話を繰り返している。それが空虚で無意味なことも、ジェップは十分承知していた。欲しいものをすべて手に入れたようでも、まだ一番大切な何かを手に入れられずにいたのだ。

 ある日、ジェップの元に1本の訃報が届く。初恋の女性、エリーザが亡くなった。知らせたのはエリーザの夫。「妻は35年間、あなたを愛していた」と言う。ジェップもまた、初恋のエリーザを密かに思い続けていた。永遠の別れに打ちのめされ、街の喧騒に身をひたしていく。

 そして立ち寄った旧友の経営するバーで、ダンサーのラモーナと知り合い、二人は意気投合。互いの心の傷を共鳴させるように、連れ立って食事やパーティーへ出るようになる──。

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 偉大なる美が積み重なった永遠の都・ローマ。退廃的で空虚、濃密な空気が街を覆う。夜のパーティーの喧騒、壮大な歴史的建造物、豪奢なファッション、突き抜ける青い空。すべてが作家を包み、虚無感が空間に満ちていく。コロッセオ、水道橋、教会と修道院──街を象徴するさまざまな建築物も、重要な登場人物として主人公に寄り添う。

 同じローマを舞台にした「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」(公開中)は、街の片隅で暮らす名もなき人々を、静かに見つめたドキュメンタリーだった。対照的に「グレート・ビューティー 追憶のローマ」が映し出すのは、まったく異なる古都の一面。饒舌で色彩豊かな別の顔だ。まるで人間のように生き生きと、ローマは生きている。

(文・遠海安)

「グレート・ビューティー 追憶のローマ」(2013年、イタリア)

監督:パオロ・ソレンティーノ
出演:トニ・セルビッロ、カルロ・ベルドーネ、サブリナ・フェリッリ、ファニー・アルダン、カルロ・ブチロッソ

2014年8月23日(土)、Bunkamura ル・シネマほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://greatbeauty-movie.com/

作品写真:(C)2013 INDIGO FILM, BABE FILMS, PATHE PRODUCTION, FRANCE 2 CINEMA

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2014年08月13日

「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」 道の端の流れ行く日常 ベネチア最高賞ドキュメンタリー

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 古都ローマををぐるりと取り囲む「環状線GRA」。交通量は1日16万台、全長約70キロ。首都を支える大動脈として、人々の生活を支えている。「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」は、道周辺の日常を追った記録映画だ。2013年の第70回ベネチア国際映画祭で、ドキュメンタリーとして史上初の金獅子賞(最高賞)を獲得した。

 登場するのは6組の人々。まずはヘッドホンを着け、殺虫剤を手にした植物学者。ヤシの幹中の音に耳をすませ、木を食い荒らす害虫を退治する。続いて住宅地にそびえる城。主は葉巻をくゆらす没落貴族で、ブルジョアを装い偽りの毎日を送っている。城は映画のセットや多目的ホールとして使われる。

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 さらにモダンなマンションの一室。老紳士と娘が過ごす毎日を、窓からカメラが覗いてとらえる。元は高貴な家柄のインテリだったが、今は狭い家に肩寄せ合って暮らす。父娘の話題は世間話から文学まで幅広い。次は白く古ぼけたキャンピングカー。持ち主の両性具有者は人生を嘆きつつ、仲間と明るく生きている。

 夜の環状線を救急車が行く。救急隊員の男性は排水溝に落ちた人の体を温め、事故で大破した車から生存者を助け出す。勤務の合間を縫い、老いた母を世話する毎日。環状線のそばを流れるテヴェレ川では、ウナギ漁師がボートを操る。後継者不足を嘆き、新聞を読んで妻に不平を漏らす。

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 それぞれの人生には、劇映画のように極端な「物語性」はない。カメラは淡々と日常をとらえていく。とりとめのない言葉のやり取り。何事もなく過ぎていく日々。何かを意味しているようでもあり、ないようでもある。2年かけて撮った映像のうち、なぜこの部分を残したのか。考えながら観る作品でもある。

 ジャンフランコ・ロージ監督は「映画は暗喩である」と言う。またイタリアの作家、イタロ・カルヴィーノの言葉「みなが通りすぎて誰もいなくなった時、本当の意味の真実の瞬間がある」を引き、「その瞬間が過ぎても残る感覚を探している」とも言う。

 植物学者も、救急隊員も、両性具有者も、没落貴族も、観る人それぞれに何らかの暗喩を与える。観た人の数だけ、観た回数だけ「真実の瞬間が通り過ぎた感覚」があるだろう。

(文・遠海安)

「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」(2013年、イタリア)

監督:ジャンフランコ・ロージ

2014年8月16日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.roma-movie.com/

作品写真:(C)DocLab

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2014年04月25日

「イタリア映画祭2014」、26日開幕 新作14本一挙に 「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」など

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 日本未公開の新作を一挙紹介する「イタリア映画祭2014」が2014年4月26日(土)、東京・有楽町で開幕する。12年以降に製作された14作品が上映され、期間中は来日ゲストによるイベントも開催される。

 01年「日本におけるイタリア年」を機にスタートし、今年で14回目。毎年ゴールデンウィークに開かれ、のべ1万人を超す観客でにぎわう。今年は「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」のジャンフランコ・ロージ監督、「いつか行くべき時が来る」と「ミエーレ」の主演女優ジャスミン・トリンカら監督、俳優10人が来日。26日の開会式、各作品上映後の観客との質疑応答に参加する。

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 カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリを獲得した「サルヴォ」は、ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァの脚本家コンビによる長編初監督作。冷徹な殺し屋が盲目の少女と出会い、互いの人生が予期せぬ方向へ変わる過程を描く。

 ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品された「初雪」は、前作「ある海辺の詩人 小さなヴェニスで」が日本公開されたアンドレア・セグレ監督第2作。イタリア北部の山間の村で、心に傷を負った少年と難民の触れ合いを映し出す。

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 ドキュメンタリー映画「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」は、ベネチア国際映画祭最高賞の金獅子賞受賞作。高速道路沿いに住む人々の物語を鋭く切り取った作品。欲望、混沌、未来と人々の心模様を叙情的にとらえている。

 「フェデリコという不思議な存在」は、フェデリコ・フェリーニ監督と交流のあったエットレ・スコーラ監督作品。二人の出会い、マルチェロ・マストロヤンニとの友情、撮影スタジオのエピソードなどを通し、フェリーニの素顔に迫る意欲作だ。

 今年もコメディー、人間ドラマ、政治風刺劇など幅広いジャンルの作品が集まった。“今のイタリア”を垣間見る貴重な機会になりそうだ。有楽町朝日ホールで4月26〜29日と5月3〜5日、大阪・ABCホールで5月10〜11日に開催される。スケジュールなど詳細は公式サイトまで。

http://www.asahi.com/italia/2014/

タグ:告知
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2014年04月24日

「バチカンで逢いましょう」 マリアンネ・ゼーゲブレヒトに聞く 「私にとって運命の映画。再び世界へ連れ出してくれた」

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 ローマ法王に会うため、カナダから単身バチカンを訪れたマルガレーテ。念願かなって謁見に臨むが、大失態を犯して窮地に陥る。救いの手を伸ばしてくれたのは、老詐欺師のロレンツォだった。マルガレーテはひょんなことから、ロレンツォのレストランを手伝うことになるが――。

 「バグダッド・カフェ」(87)のマリアンネ・ゼーゲブレヒトが久々にヒロイン役を演じた「バチカンで逢いましょう」。ゼーゲブレヒトは「この映画は、私をもう一度世界へと連れ出してくれた運命の映画です」と語った。

女優として再スタート 「ちょうどいい機会」

 日本での主演作公開は、89年の「ロザリー・ゴーズ・ショッピング」以来25年ぶり。「バグダッド・カフェ」同様、パーシー・アドロン監督と組んだこの作品も世界中で大ヒット。ハリウッドに招かれ、マイケル・ダグラス主演の「ローズ家の戦争」(89)にも出演した。国際的な注目も高まったが、その後表舞台から遠ざかる。きっかけの一つとなったのが「ティシュペーパーの宣伝に『バグダッド・カフェ』の一部を使いたい」という広告会社の申し出だった。

 「私の魂がこもった大切な映画。切り売りするなんて許せなかった。世界中を“ティシュペーパーおばさん”になって駆け巡るのはごめんだった(笑)。契約していれば大金が転がり込んでいたはず。マネージメント側は激怒した。『何様だと思っているんだ』と。私の立場は悪くなった。それで一線から退くことになったんです」

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 かねて興味を抱いていた医療分野に関する本を書いたり、ハーブを育てたりしながら、年に1回テレビ映画に出演。時には独立系の映画に出ることも。そんな静かな日々を送っていたところ、原案者のクラウディア・カサグランデから「バチカンで逢いましょう」の企画を持ちかけられた。

 「彼女が自分のおばあさんについて書いた話。『私のおばあさんを演じられるのはあなたしかいない。ぜひやってほしい』と口説かれ、じゃあやらせていただこうと。女優として再スタートするちょうどいい機会だとも思ったんです」

地元のドイツではない 一番遠い日本から

 それ以前にもメジャーな作品への出演依頼はあった。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「エンド・オブ・デイズ」(99)、アルフォンソ・キュアロン監督の「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(04)、クライブ・オーウェン主演の「トゥモロー・ワールド」(06)。どれも役柄が納得できないなどの理由で断っていた。

 「ウディ・アレンにもオファーされた。その時は『5日後に撮影に入るから』と無茶を言われ、無理だと」(笑)

 決してメジャーな映画を拒否したわけではない。心の準備はできていた。「バチカンで逢いましょう」は、満を持してのカムバックといえるかもしれない。

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 「1本1本の映画にそれぞれが持つ運命があると思う。この映画は私をもう一度世界へ連れて行ってくれる。そんな運命を持った映画なのでしょうね」

 今回宣伝で来日すると決まった時、脳裏に浮かんだことがある。ベルリン国際映画祭で上映された「シュガー・ベイビー」(84)を世界で最初に買い付けたのが、日本の配給会社だったこと。同作は日本を皮切りに世界中で上映されて大ヒットし、続く「バグダッド・カフェ」の大成功につながった。

 「地元のドイツからではなく、一番遠い日本から始まったことに、神秘的な力を感じる。あの時はだめだったけれど、今回は来日できた。やはり私を世界に連れ出してくれる映画なのだと思いますね」

ジャンニーニのイタリア語 自然に反応できた

 その運命的な映画で、ゼーゲブレヒトと運命的な出会いを果たすのが、イタリアの名優ジャンカルロ・ジャンニーニだ。ゼーゲブレヒト自身が共演を熱望したという。

 「ジャンニーニさんはちょうどボンド映画(『007 慰めの報酬』)に出演中だったので、実現は難しいかもしれないと思った。でも彼も私のファンで『マリアンネ・ゼーゲブレヒトが出るならぜひ』と引き受けてくれた。尊敬していた彼と共演できてうれしかった」

 イタリア人のジャンニーニと、ドイツ人のゼーゲブレヒト。コミュニケーションで困ることはなかったのか。

 「ジャンニーニさんは国際経験が豊富なので英語も達者。プライベートでは英語で話しました。演技中、彼がイタリア語で話している時も問題はなかった。私はイタリア語のリズムが好きだし、ごく自然に反応できる。2カ国語で演技しなければならない時、大きな目で相手を見つめながら、いつ話し出したらよいかタイミングをはかる人もいますが(笑)、私は自然体で反応できる。ジャンニーニさんも同じでしたね」

“愛と情熱”へのお目こぼし イタリアでは警察も

 2人が初めて出会うバチカンのシーン。マルガレーテ(ゼーゲブレヒト)が、詐欺師のロレンツォ(ジャンニーニ)に護身用のスプレーをかけようとするが、誤ってローマ法王の顔にかかってしまう。
 
 「これは実話。実際には顔にかからず、衣服を汚した程度。マルガレーテはすぐ警備員につかまりますが、なんとあれはバチカンの本物の警備員。捕まった時はドキドキしました(笑)」

 警察で尋問を受けるマルガレーテを、ロレンツォが救い出す。

 「ロレンツォが助けてくれるシーンは、本当に感動的でした。ジャンニーニさんの演技がとても情熱的で。イタリア人はみな愛と情熱に弱い。『愛のせいだ、嫉妬のせいだ』と言えば、警察もお目こぼししてくれる。そんな素晴らしいシーン。イタリアで初日に撮ったのでとても印象に残っています」

 撮影中は亡きマルガレーテの魂が自分と一緒にいてくれるようで、幸せな気持ちだったという。

 「スタッフや共演者とも仲よくさせてもらった。素晴らしい経験でした」

(文・写真 沢宮亘理)

「バチカンで逢いましょう」(2012年、ドイツ)

監督:トミー・ヴィガント
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、ジャンカルロ・ジャンニーニ、アネット・フィラー、ミリアム・シュタイン

2014年4月26日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.cinematravellers.com/

作品写真:(C) 2012 Sperl Productions GmbH, Arden Film GmbH, SevenPictures Film GmbH, Co-Produktionsgesellschaft “Oma in Roma” GmbH &Co. KG, licensed by Global Screen GmbH.
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2013年12月22日

「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」公開初日トークショー テロと事実の隠ぺい 日本との共通点指摘

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 イタリアのミラノで起きた未解決爆破事件をテーマにした「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」が12月21日公開され、東京・新宿で識者によるトークショーが開催された。

 1969年、学生運動が激化するミラノのフォンターナ広場で、隣接する農業銀行が爆破され、死者17人、負傷者88人の大惨事となった。。容疑者が逮捕されるが真相は解明されず、イタリア史上最大の未解決事件に。その後「政府が国益を優先し、事実を隠ぺいした」との指摘も出ている。

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 トークには映画監督で作家の森達也氏、新右翼「一水会」顧問の鈴木邦男氏、進行役で朝日新聞社記者の諸永裕司記者が参加。日本の未解決事件「下山事件」について取材経験のある森、諸永両氏は「(フォンターナ広場事件と)重なるところがある」と語った。

 また、テロ事件が発生し、謀略説が広まる過程について、鈴木氏は「この映画のように、権力は途中から相乗りしてくる。何か起こると利用しようとする。それが怖い」と話した。

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 さらに、森氏が「テロの一番大きな目的は、不安や恐怖を与え、政治的な目的を達成する過程にすること」と説明。外交・安全保障政策を協議する「国家安全保障会議(日本版NSC)について「テロの定義を分かっていない人が、テロを理由に国民を管理する法律を作る。テロが目的としている方向に現状が乗っ取られていく。この映画は44年前の事件を描いているが、今の日本に重要なメッセージを突き付けているのではないか」と語った。

「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」(2012年、伊・仏)

監督:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ
出演:ヴァレリオ・マスタンドレア、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、ミケーラ・チェスコン、ラウラ・キアッティ、ファブリツィオ・ジフーニ、ルイージ・ロ・カーショ

2013年12月21日、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://moviola.jp/fontana/

作品写真:(c)2012 Cattleya S.r.l. – Babe Films S.A.S

タグ:イベント
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