2013年06月04日

「ローマでアモーレ」 円熟のウディ・アレン 愛と笑いとペーソスと

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 前作がパリで、その前はロンドン。で、今回はローマ。ウディ・アレン監督の新作は、“永遠の都”ローマを舞台に、4つのエピソードが展開するオムニバス喜劇だ。アレン自身も久々に役者として登場。独特のくどさは健在だが、目立ちすぎることはなく、他のキャラクターをうまく引き立てている。円熟の味というべきか。

 アレンが登場するのは、最初のエピソードだ。旅行中にイケメン弁護士のミケランジェロと恋に落ち、結婚することになった米国人女性、ヘイリー。ミケランジェロの家族に会わせるため、ニューヨークから両親を呼び寄せる。元オペラ演出家の父親ジェリーに扮するのがアレンだ。ジェリーは、ミケランジェロの父親ジャンカルロ(ファビオ・アルミリアート)が類まれな歌唱力の持ち主であることを知ると、彼を売り出して自らもオペラ界に返り咲こうと画策するが、事は思い通りには進まず――。ジャンカルロは“シャワーを浴びながら”じゃないと実力を出せない。この設定が、クライマックスの秀逸な爆笑シーンにつながっている。

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 第2のエピソードに登場するのは、田舎からやってきた新婚カップル。妻のミリーが外出中、夫のアントニオが1人きりでホテルの部屋にいると、部屋を間違えてコールガールのアンナ(ペネロペ・クルス)が入ってくる。誘惑するアンナ。抵抗するアントニオ。ベッドでもみ合っているところに、あろうことかアントニオの親戚たちが訪ねてくる。一方、美容院を探して道に迷ったミリーは、憧れの映画スターと遭遇し、貞操の危機にさらされる――。

 第3のエピソードは、若い建築家ジャック(ジェシー・アイゼンバーグ)が恋人サリー(グレタ・ガーウィグ)の友人で売れない女優のモニカ(エレン・ペイジ)に翻弄される話。サリー以外の女性は眼中にないジャックだったが、小悪魔的な魅力を持つモニカに、いつのまにかメロメロ。そんなジャックの前に、著名な建築家のジョン(アレック・ボールドウィン)が現われ、アドバイスを始める――。

 ジャックに影のようにつきまとうボールドウィンの役回りは、アレンの脚本・主演作で、日本でも大ヒットした「ボギー!俺も男だ」(72)のボギーそっくり。紆余曲折を経て原点に回帰してきたアレンの融通無碍な演出が冴える。

 第4のエピソードは、平凡なサラリーマンのレオポルド(ロベルト・ベニーニ)が主人公。いつものように出勤しようと自宅を出たレオポルド。いきなり、マスコミに取り囲まれ、車でテレビ局に連れて行かれる。訳も分からず、スタジオでくだらない受け答えをするレオポルド。なのに、なぜか大受け。一躍“時の人”に祭り上げられてしまう――。フェリーニの「甘い生活」(60)のテーマでもあったメディアの狂騒、巻き込まれた男の滑稽と悲哀が描かれ、他の3つとは味わいの異なるエピソードに仕上がった。

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 4つのエピソードは順番にではなく、同時に進行。場面は次々と転換していく。それでも混乱せず見られるのは、脚本の巧みさだろう。いずれもちょっと肉付けすれば、独立した長編になるくらい内容が充実。ローマの観光名所や穴場スポットを全編に組み込んだ映像も楽しい。なんとも贅沢な作品だ。

(文・沢宮亘理)

「ローマでアモーレ」(2012年、米・イタリア・スペイン)

監督:ウディ・アレン
出演:ウディ・アレン、アレック・ボールドウィン、ロベルト・ベニーニ、ペネロペ・クルス、ジュディ・デイヴィス、ジェシー・アイゼンバーグ、グレタ・ガーウィグ、エレン・ペイジ

2013年6月8日、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://romadeamore.jp/

作品写真:(c)GRAVIER PRODUCTIONS,INC.photo by Philippe Antonello
タグ:レビュー
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2013年04月28日

「イタリア映画祭2013」開幕 新作13本一挙に 「映画は旅。現代イタリアの感性、内面景色を見てほしい」

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 イタリア映画の新作13本を一挙上映する「イタリア映画祭2013」が4月27日、東京・有楽町で開幕した。同日行われた開幕式で、ドミニコ・ジョルジ駐日イタリア大使は「作り手がそれぞれの視点で、希望をもって現代イタリアを描いている。今後も映画を通じ、日本との協力が深まることを願います」とあいさつした。

 さらに、イタリア文化会館のジョルジョ・アミトラーノ館長が「映画は旅で冒険だ。行き先は有名観光地ではない。作品を通じ、今日のイタリア人の感性や心情、ガイドブックにはない内面景色を見られるでしょう」と語った。

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 また、中産階級の貧困問題を取り上げた「綱渡り」のイヴァーノ・デ・マッテオ監督は、同日上映後の質疑応答で「イタリアでは今、“新貧困層”が増えている。月収1200ユーロ(約15万3000円)前後で、仕事をかけもちして家族を養わなければならない人々だ。精神的貧困と知性の流出も深刻」と話した。

 今年で13回目。「輝ける青春」(03)のマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督による「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」、「ゴモラ」(08)のマッテオ・ガッローネ監督の「リアリティー」などが上映される。

(文・写真 遠海安)

「イタリア映画祭2013」は2013年4月27〜29日、5月3〜6日に東京・有楽町朝日ホール、5月11〜12日に大阪・ABCホールで開催される。作品の詳細、上映スケジュールは公式サイトまで。

http://www.asahi.com/italia/2013/

写真:開幕式に参加した監督、俳優ら=東京・有楽町で4月27日
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2013年04月24日

「イタリア映画祭2013」 4月27日開幕 未公開13作品一挙に カンヌ映画祭グランプリ「リアリティー」も

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 日本未公開のイタリア映画を一挙上映する「イタリア映画祭2013」が4月27日、東京・有楽町ホールで開幕する。13回目の今年は、11年以降に製作された13作品を上映。監督や俳優らゲスト約20人の来日も予定されており、ゴールデンウィークは有楽町が“イタリア色”に染まる。

 今年もコメディーから青春映画、人間ドラマまで幅広いラインナップ。パオロ・ヴィルズィ監督のロマンチック・コメディー「来る日も来る日も」のほか、ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作「ふたりの特別な一日」(フランチェスカ・コメンチーニ監督)、新人俳優賞・撮影賞を受賞した「それは息子だった」(ダニエーレ・チプリ監督)など、各地の映画祭で評価された作品もそろった。

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 第56回カンヌ国際映画祭である視点部門グランプリを獲得した「輝ける青春」(03)のマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督が、イタリアを震撼させた銀行爆破事件を描く「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」も注目作。マフィア組織を描いた「ゴモラ」(08)に続き、2作品連続でカンヌ国際映画祭グランプリの栄誉に輝いたマッテオ・ガッローネ監督の「リアリティー」も特別上映される。

 また、開催に合わせて「司令官とコウノトリ」出演俳優のジュゼッペ・バッティスントン、「素晴らしき存在」のフェルザン・オズペテク監督らゲスト約20人が来日。4月27〜29日に行われる観客との質疑応答のほか、29日の座談会・サイン会にも参加する予定だ。

(文・遠海安)

「イタリア映画祭2013」は2013年4月27〜29日、5月3〜6日に東京・有楽町朝日ホール、5月11〜12日に大阪・ABCホールで開催される。作品の詳細、上映スケジュールは公式サイトまで。

http://www.asahi.com/italia/2013/
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2013年04月18日

「孤独な天使たち」 ベルトルッチ9年ぶり新作 異母姉弟、7日間の密室生活

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 主人公のロレンツォは孤独癖が強く、集団行動が苦手な思春期の14歳。母親の干渉をうるさがる一方で「もしこの世が滅びて、ママと僕の2人きりになったらどうする? 子供も残さなければいけないね……」なんて甘えてみたりもする。どうにも扱いにくい少年だ。そんなロレンツォが「学校のスキー合宿に参加する」と言い出した。やっと息子がまともになったと、母親は喜ぶ。

 しかし、合宿参加と言ったのは、母親の目を欺くための偽装だった。ロレンツォが計画していたのは、自宅のあるアパルトマンの地下室にこもり、心ゆくまで孤独を楽しむこと。食べ物や本、そしてガラスケース製の“蟻の巣”など、お気に入りのアイテムを持ち込み、誰にも邪魔されず、自分だけの時間を満喫しようというわけだ。

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 ところが至福のひとときは、たちまち終止符を打たれる。突然、異母姉のオリヴィアが現れたのだ。久々の再会だった。「私物を取りにきた」というオリヴィアはいったん出て行くが、すぐに戻ってくると、「行き場がない」とそのまま居ついてしまう。こうして異母姉弟2人きりの奇妙な“合宿生活”が始まった。

 ベルナルド・ベルトルッチ監督、9年ぶりの新作「孤独な天使たち」。異母姉弟が、地下空間で、誰にも知られず1週間を過ごす。何とも好奇心を刺激する設定だ。自閉症気味なロレンツォに対し、オリヴィアはドラッグ中毒で、“ヤク断ち”の最中。それぞれに問題を抱えている。そんな姉と弟が、寝食をともにしながら内面をさらけ出し、殻を破っていく。

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 半分だけ血のつながった姉と弟。そこはかとなく背徳の匂いが漂う。何かが起きても不思議ではない。一触即発の緊張感を保ったまま、“合宿”はやがて最終日を迎える――。

 病気で長期休養を余儀なくされていたベルトルッチ監督。一時は引退も覚悟したそうだが、車椅子での生活を受け入れ、監督復帰。座ったままでの撮影という制約を逆手にとって、創造性あふれる密室劇を作り上げた。

(文・沢宮亘理)

「孤独な天使たち」(2012年、イタリア)

監督:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:ヤコポ・オルモ・アンティノーリ、テア・ファルコ、ソニア・ベルガマスコ、ヴェロニカ・ラザール

2013年4月20日、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://kodoku-tenshi.com/

作品写真:(c)2012 Fiction – Wildside
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2013年04月05日

「海と大陸」 地中海に生きる難民 厳しい現実と人間の真実

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 遊覧船のデッキにあふれる水着姿の観光客たち。何十人いるのだろう。全員が白人だ。歌って、踊って、海に飛び込む。水しぶきが陽光にきらめく。青い空、白い雲、輝く太陽。夏のバカンス期を迎え、地中海の小島がしばし活気づく。

 一方、真っ暗な夜の海で、小さないかだにひしめく難民たち。アフリカから圧政を逃れてやってきた人々だ。現れたボートに向かって、一目散に泳ぎ出す。ボートにたどり着くと、へりにつかまり、必死によじ登ろうとする。しかし、ことごとく撃退されてしまう。

 明と暗。白と黒。天国と地獄。対照的な2つのシーンに、映画のテーマが見事に表現されている。南イタリアのシチリア島南方に浮かぶリノーサ島。かつて盛んだった漁業は衰退し、観光業の成否に島の将来がかかっている。そんなリノーサ島にとって、不法難民の流入は最も警戒しなければならないことだった。

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 とりすがる難民を退けたのは、主人公のフィリッポである。父親を海で亡くし、祖父のエルネストと漁業を続けているが、本土に渡って新生活を始めたいと願う母親のジュリエッタ、漁業に見切りをつけて観光業に転じた叔父のニーノ、そして親しくなった観光客のマウラとの間で価値観が揺れ動き、自分の生き方が定まらない。

 フィリッポは、祖父とともに難民の女性を助けたことがあった。法には反するが、人道には適った行為。しかし、そのせいで、祖父は当局から漁船を差し押さえられた。母親もストレスを募らせていた。マウラと夜の海に出たフィリッポが難民を打ち払ったことは、一概に責められるものではない。だが、フィリッポが難民を排除した翌日、海岸にその難民たちが打ち上げられて――。

 20歳の若者のひと夏の成長を通して、不法移民や経済格差などイタリアの社会問題を鮮やかに浮かび上がらせた。いかにも頼りなげだった主人公が決然とした行動に出るラストシーンが心を打つ。オープニングの水中撮影から、エンディングの空撮まで、映像の美しさも堪能したい。

(文・沢宮亘理)

「海と大陸」(2011年、イタリア・フランス)

監督:エマヌエーレ・クリアレーゼ
出演:フィリッポ・プチッロ、ドナテッラ・フィノッキアーロ、ミンモ・クティッキオ、ジュゼッペ・フィオレッロ、ティムニット・T

4月6日、岩波ホールほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.umitotairiku.jp/

作品写真:(c)2011 CATTLEYA SRL・BABE FILMS SAS・FRANCE 2 CINÉMA
タグ:レビュー
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