
前作がパリで、その前はロンドン。で、今回はローマ。ウディ・アレン監督の新作は、“永遠の都”ローマを舞台に、4つのエピソードが展開するオムニバス喜劇だ。アレン自身も久々に役者として登場。独特のくどさは健在だが、目立ちすぎることはなく、他のキャラクターをうまく引き立てている。円熟の味というべきか。
アレンが登場するのは、最初のエピソードだ。旅行中にイケメン弁護士のミケランジェロと恋に落ち、結婚することになった米国人女性、ヘイリー。ミケランジェロの家族に会わせるため、ニューヨークから両親を呼び寄せる。元オペラ演出家の父親ジェリーに扮するのがアレンだ。ジェリーは、ミケランジェロの父親ジャンカルロ(ファビオ・アルミリアート)が類まれな歌唱力の持ち主であることを知ると、彼を売り出して自らもオペラ界に返り咲こうと画策するが、事は思い通りには進まず――。ジャンカルロは“シャワーを浴びながら”じゃないと実力を出せない。この設定が、クライマックスの秀逸な爆笑シーンにつながっている。

第2のエピソードに登場するのは、田舎からやってきた新婚カップル。妻のミリーが外出中、夫のアントニオが1人きりでホテルの部屋にいると、部屋を間違えてコールガールのアンナ(ペネロペ・クルス)が入ってくる。誘惑するアンナ。抵抗するアントニオ。ベッドでもみ合っているところに、あろうことかアントニオの親戚たちが訪ねてくる。一方、美容院を探して道に迷ったミリーは、憧れの映画スターと遭遇し、貞操の危機にさらされる――。
第3のエピソードは、若い建築家ジャック(ジェシー・アイゼンバーグ)が恋人サリー(グレタ・ガーウィグ)の友人で売れない女優のモニカ(エレン・ペイジ)に翻弄される話。サリー以外の女性は眼中にないジャックだったが、小悪魔的な魅力を持つモニカに、いつのまにかメロメロ。そんなジャックの前に、著名な建築家のジョン(アレック・ボールドウィン)が現われ、アドバイスを始める――。
ジャックに影のようにつきまとうボールドウィンの役回りは、アレンの脚本・主演作で、日本でも大ヒットした「ボギー!俺も男だ」(72)のボギーそっくり。紆余曲折を経て原点に回帰してきたアレンの融通無碍な演出が冴える。
第4のエピソードは、平凡なサラリーマンのレオポルド(ロベルト・ベニーニ)が主人公。いつものように出勤しようと自宅を出たレオポルド。いきなり、マスコミに取り囲まれ、車でテレビ局に連れて行かれる。訳も分からず、スタジオでくだらない受け答えをするレオポルド。なのに、なぜか大受け。一躍“時の人”に祭り上げられてしまう――。フェリーニの「甘い生活」(60)のテーマでもあったメディアの狂騒、巻き込まれた男の滑稽と悲哀が描かれ、他の3つとは味わいの異なるエピソードに仕上がった。

4つのエピソードは順番にではなく、同時に進行。場面は次々と転換していく。それでも混乱せず見られるのは、脚本の巧みさだろう。いずれもちょっと肉付けすれば、独立した長編になるくらい内容が充実。ローマの観光名所や穴場スポットを全編に組み込んだ映像も楽しい。なんとも贅沢な作品だ。
(文・沢宮亘理)
「ローマでアモーレ」(2012年、米・イタリア・スペイン)
監督:ウディ・アレン
出演:ウディ・アレン、アレック・ボールドウィン、ロベルト・ベニーニ、ペネロペ・クルス、ジュディ・デイヴィス、ジェシー・アイゼンバーグ、グレタ・ガーウィグ、エレン・ペイジ
2013年6月8日、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://romadeamore.jp/
作品写真:(c)GRAVIER PRODUCTIONS,INC.photo by Philippe Antonello
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