1943年12月、イタリア北部・ボローニャに近い小さな山村。ドイツ軍とパルチザンの攻防が激化し、村にも戦争の影が迫っていた。8歳のマルティーナは大所帯の農家の一人娘。生まれたばかりの弟を腕の中で亡くして以来、口をきかなくなっていた。ある日、母のレナが妊娠。家族は新しい命の誕生を待ち望む。一方、戦いが激しくなり、ドイツ軍が村に出入りする中、地元の若者たちはひそかにパルチザンとして抵抗を続ける。幼いマルティーナにはどちらが敵で、どちらが味方かよく分からない。そして44年9月29日、ドイツ軍がパルチザン掃討作戦を開始する──。監督は「風は自分の道をめぐる」(05)のジョルジョ・ディリッテイ。長編2作目となる。
44年9月29日未明から10月5日までの7日間、北イタリアの山村で起きたナチス・ドイツ軍による「マルザポットの虐殺事件」を少女の視点で描いたドラマだ。この事件前の44年8月12日、同国トスカーナ県サンタナ・ディ・スタッツエーマで起きた虐殺をテーマした作品が、スパイク・リー監督「セントアンナの奇跡」である。
口をきかないマルティーナは、変わり者として同級生にからかわれるが、泣くこともなく、我慢強い少女である。家には祖父母、両親と伯母が一緒に暮らし、母は新しい命を宿す。しかし、村にドイツ軍が出入り。村の若者はパルチザンに志願し、ゲリラ戦を繰り広げていた。
村には時々、ドイツ軍の兵隊が物品を買いに来る。マルティーナにとってドイツ兵は、軍服を着たごく普通の人間。パルチザンの若者とも知り合いの彼女にとって、どちらも普通の大人たちであり、戦争の意味は分からない。そんな気持ちを正直に作文に書けば、学校の教師や母親に怒られてしまう。マルティーナの心の声が作文を読み、マルティーナの声で戦争に直面した子供の心が語られる。味わい深いシーンだ。都会から疎開に来る人が増える中、マルティーナの母は男の子を出産。同じ日にドイツ軍はパルチザン掃討を決行。老人、女性、子供を含む村人を一カ所に集めて無差別虐殺を開始する。
中盤までは自然と共存する家族のつつましい生活を、忍び寄る戦火への不安感とともに淡々と描く。マルティーナが話さない設定がポイントである。同級生からいじめられたり、からかわれたりするが、彼女はめげることなく健気に生きる。普通子役は笑ったり泣いたり、感情をあらわにして観客にこびるが、彼女は自然体を貫き通す。マルティーナをあえて話させず、物語の第三者立場にし、観客に考える余地を与えたかったそうだ。傍観者となったマルティーナに、パルチザンが顔見知りのドイツ兵を処刑する場面や、村人が虐殺される姿を目撃させる。
繰り返される戦争の悲劇に、作り手は史実に忠実に物語を描き、今の世の中に生きる観客に問いかける。弟と共に生き延びた主人公が、逃げてたどりついた村で運命を受け入れ、赤ん坊のために子守唄を歌う姿に、わずかな希望が残る。まるで死んでいった人々への鎮魂歌のようで、胸が締め付けられた。
(文・藤枝正稔)
「やがて来たる者へ」(2009年、イタリア)
監督・原案・脚本・編集・製作:ジョルジョ・ディリッティ
出演:アルバ・ロルヴァケル、マヤ・サンサ
10月22日、岩波ホールほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.alcine-terran.com/yagate/
作品写真:(c)CARANCIAFILM2009



