2014年01月08日

「旅人は夢を奏でる」 父と息子、和解への道 ミカ・カウリスマキが見せる 温かきロードムービー

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 ミカ・カウリスマキは、旅する監督である。フィンランドに生まれ、弟アキと映画の道へ進み、今はブラジルに住んでいる。「旅人は夢を奏でる」は、旅と音楽を愛する監督が、日常に倦んだ人々に温かい夢を見せるロードムービーだ。

 フィンランドの首都ヘルシンキ。生真面目なピアニストのティモ(サムリ・エデルマン)は、生活臭のない高級マンションに一人暮らしている。愛する妻と子に去られ、失意の底にいた。ある夜帰宅すると、入り口に見知らぬ初老の男が座っている。「ティモじゃないか」。親しげに話しかける男は、35年前、幼いティモを置いて失踪した父レオ(ヴェサ・マッティ・ロイリ)だという。

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 「一緒にウルフランドへ行ってほしい」。レオに頼まれ、しぶしぶ車に乗り込むティモ。いい加減で気ままな父の主導で、二人の珍道中は続く。存在すら知らなかった母親違いの姉、少しボケた祖母との出会い。行く先々で家族の秘密を打ち明けつつ、レオは「最後の真実」を知らせるため、ティモを連れて旅の終点へ向かう──。

 ティモは現代人そのものだ。仕事に絡めとられ、愛想を尽かした妻の気持ちも理解できない。逆にレオは常識外れ。針金1本で車を盗み、コンビニ強盗(あくまで平和的に)もする。突然「父だ」と現れるが、どこまで本当か分からない。とぼけた父に促されるまま、ティモは旅を続け、人生を振り返る。ここではないどこかへ。私たちはもしかしたら、心の片隅で「レオに連れ出される」ことを夢見ているのかもしれない。

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 レオを演じたヴェサ・マッティ・ロイリは、フィンランドのベテラン喜劇俳優でミュージシャン。父と息子の和解の物語を、北欧の美しい景色、ジャズやシャンソンの名曲が包む。カウリスマキ監督は言う。「旅には景色が動き、自由があり、人は何かを探し求めている。素晴らしい場所なんだ」

(文・遠海安)

「旅人は夢を奏でる」(2012年、フィンランド)

監督・脚本・製作:ミカ・カウリスマキ
出演:ヴェサ・マッティ・ロイリ、サムリ・エデルマン、ピーター・フランゼン、マリ・ペランコスキ、レア・マウラネン、イーリナ・ビョルクルンド

2014年1月11日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.alcine-terran.com/tabiyume/

作品写真:(C)Road North

タグ:レビュー
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2013年09月08日

「フィンランド映画祭2013」、10月5日から 新作5作品一挙上映 ミカ・カウリスマキ監督、10年ぶり来日へ

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 フィンランドの新作映画を一挙紹介する「フィンランド映画祭2013」が10月5〜9日、東京・六本木で開催される。「旅人は夢を奏でる」(12)のミカ・カウリスマキ監督、「ミス・ジーンズ・フィンランド」(12)のマッティ・キンヌネン監督が来日する。

 今回で5回目。上記2作品のほか、いずれも今年製作の「結婚をダメにする21の習慣」(ヨハンナ・ヴオグセンマー監督)、「灯台守の少年」(ウルリーカ・ベングドゥス監督)、「すべては愛のために」(マッティ・イヤス監督)の計5作品が上映される。

 アキ・カウリスマキ監督の兄のミカ・カウリスマキ監督は10年ぶりの来日。兄弟で「コンディション・レッド」、「アマゾン」などを共同製作し、製作会社社長を務める。スカンジナビア半島北部のラップランドで年1回、2人で「ミッドナイト・フィンランド映画祭」を開催している。「旅人は夢を奏でる」は、ピアニストの男が数十年ぶりに父と再会。2人で北への旅に向かう中、心を通わせる物語。

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 「ミス・ジーンズ・フィンランド」は1977年、キンヌネン監督の出身地でもある北部の都市・オウルが舞台。学校一の美女に恋した高校生が、ロックバンドを結成。さえない男からの脱出を目指す物語。監督はこれまでテレビドラマを手がけ、今回は長編映画監督2作目となる。

 「結婚をダメにする21の習慣」は、9月現在フィンランド年間興行収入1位のヒット作品。「結婚はなぜ失敗するのか」を調べる女性が主人公。結婚の行方を左右する「21の習慣」をめぐる人間ドラマだ。

 「灯台守の少年」は、灯台の島を訪れた謎の少年と、船長になりたい少年の物語。短編やドキュメンタリー、テレビドラマを製作してきたベングドゥス監督の長編2作目。

 「すべては愛のために」は、内気でロマンチックなカメラマンをめぐる人間模様。元受刑者の男と破天荒な元妻との出会い、旅を描く。イヤス監督はアキ・カウリスマキ監督とともに、現代フィンランド映画界を代表する作家の1人と称されている。

(文・遠海安)

 「フィンランド映画祭2013」は10月5〜9日、東京・TOHO シネマズ 六本木ヒルズで開催。作品の詳細、上映スケジュールは公式サイトまで。

http://eiga.ne.jp/finland-film-festival/

タグ:告知
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2011年05月08日

「100,000年後の安全」 怪物を眠らせ続ける フィンランドの挑戦

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 原発は、事故さえ起きなければ安全なのか? 答えはノー。核分裂により発生する放射性廃棄物を完全に処分しない限り、放射能汚染の可能性は消えず、人命は脅かされ続ける。脅威から逃れるには、放射性廃棄物を地上から隔離してしまうしかない。たとえばロケットで太陽に打ち込むか、海底に沈めるか。しかし、打ち上げに失敗した場合の被害はあまりに甚大で、海底の安全にも保障はない。

 そこで考えられたのが、地中深くに埋めてしまう方法だ。固い岩盤を掘削し、数百メートルの深部に設けたスペースに、何重にもバリアをかけて放射性廃棄物を永久保管するもので、“地層処分”と呼ばれる。「100,000年後の安全」は、世界で初めて地層処分に着手したフィンランドの試みを紹介するドキュメンタリーである。

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 プロジェクトの名は「オンカロ」。フィンランド語で「隠れた場所」という意味だ。地下500メートル、全長数キロに及ぶトンネルの行きつく先には広大な貯蔵施設が建設される。完成は100年後の22世紀。気の長い話だが、長いのはその先である。放射性廃棄物の毒性が消滅するまでの10万年間、無傷で“冬眠”させ続けなくてはならないからだ。その間、地上ではさまざまなできごとが起こるだろう。戦争、気候変動、天変地異……。しかし、何が起ころうと、このモンスターの目を覚まさせてはいけないのだ。

 6万年後には氷河期が訪れ、人類は滅亡する。もし、その後に新人類が誕生して、「オンカロ」を発見したら? 彼らへの警告はどうするか。現在使用されている言語は通じないだろう。絵や記号を使うか。しかし、たとえ危険に気づいたとして、彼らが黙って引き下がる保証はあるのか。好奇心を刺激され、内部を暴こうとするのではないか。ならばむしろ、一切の情報は残さず、ひたすら発見されないことを祈るべきなのか――。

 映画の中心をなすのは、「オンカロ」にかかわった専門家たちによる、とりとめのない議論だ。そこには気の遠くなるような未来に生きる新人類への気遣いがある。自らが生み出した脅威に対して、全知を傾け、最善を尽くし、責任を取ろうとする真摯な姿勢がある。

 日本の原発関係者に、このような姿勢など望みようもないのだろうが、原発を使い続ける以上、廃棄物処理の問題は避けて通ることができない。世界屈指の地震国、日本で、フィンランドのようなオンカロの建設は、はたして可能なのだろうか。原発の現状、そして今後について、真剣な議論が求められるいま、すべての日本人に見てもらいたい作品である。

(文・沢宮亘理)

「100,000年後の安全」(2009年、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア)

監督:マイケル・マドセン

渋谷アップリンク、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開中。全国で順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

http://www.uplink.co.jp/100000/
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2010年10月29日

「ヤコブへの手紙」 盲目の牧師と元受刑者 闇を抜け 希望探る

「フィンランド映画祭2010」(10月30日〜11月5日)上映作品

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 終身刑に服しながら、模範囚として恩赦で出所したレイラは、ヤコブ牧師の家で働くことになった。片田舎で一人暮らす年老いた彼には、悩みある人々からの手紙が毎日届けられる。レイラの仕事は盲目の牧師のために手紙を読み、返事を書くことだ。手紙を楽しみにする牧師と、生きることに希望を持てず、いやいや仕事をこなすレイラ。そして突然現れたレイラに不信感を抱く郵便配達人。ある日、手紙がぷつりと来なくなり、牧師はすっかり気を落としてしまう──。

 「ヤコブへの手紙」は今年の米アカデミー賞外国語映画賞フィンランド代表作品に選ばれ、カイロ国際映画祭グランプリ・脚本賞など各国の映画祭で17の賞を受賞した。主な出演者は3人。舞台劇のような設定で、ヤコブ牧師の家と周辺で話は進行していく。身寄りのないレイラは、勧められるまま牧師の家に住み込む。レイラを温かく迎える牧師に、彼女はそっけない態度を取ってしまう。

 物語は多くを語らない。終身刑を受けていたことしか、観客はレイラの背景を知らない。太った体でふてぶてしい態度を取るレイラ。牧師はやせ細った盲目の老人で、観客はレイラに得体の知れない不安を感じる。パンを切るナイフを老人の目の前にちらつかせたり、配達人に悪態をついたり、牧師への手紙を勝手に捨ててしまったり。レイラを演じるカーリナ・ハザードの凄みも加わり、見えてこない彼女の本性に前半は不安がふくらみ、サスペンスに近い感覚さえ覚える。手紙で人々の悩みを聞くことを生きがいにしてきた牧師。しかしある日、勝手に家に入りこんだ配達人をレイラがとがめてから、手紙はピタリと来なくなってしまい、牧師は日に日に衰弱していく。

 謎だらけの物語だ。牧師に届けられるたくさんの手紙、手紙とともに送られてくる現金、牧師が現金をしまっている空き缶。どうやら謎の答えは、配達人が握っているようだ。善人そうな配達人であるが、勝手に牧師の家にあがりこむ。「心配だから様子を見に来た」という言葉とは裏腹に、空き缶から金は消え、配達人の自転車は新しくなっている。目の見えない牧師は、手紙の筆跡を知ることができない。レイラと配達人がいざこざを起こして以降、一切来なくなる手紙。手紙に現金が同封されていると知り、牧師が「お金が戻ってくるとは思わなかった」と言う場面。「長い間、手紙を送り続けてくる人もいる」と言い、文面を読んで送り主に気付く描写。配達人と牧師の間に暗黙の了解があったようにも読み取れる。

 手紙が来なくなり、生きがいを失った牧師が取る行動はとても宗教的だ。誰も来るはずのない礼拝堂で、新郎新婦を待つ牧師。目に見えない信仰に救われてきたはずなのに、信仰にとらわれ過ぎて、押しつぶされてしまう。同様に生きる目的を見出せないレイラは、自殺を図る。二人を救うのは、朽ち果てた建物の天井から落ちる雨漏りの水。宗教的な表現だ。神からの恵みとなる水に救われ、我に返るレイラと牧師は、初めて対等に向き合う──。

 信仰によって救う人と救われる人。フィンランドから送られてきた映画は、寓話の形を取りながら、人間の心の闇や弱さをミステリアスに描いている。全体的に暗くなりがちな物語であるが、希望の光を残した幕引きに救われた。

(文・藤枝正稔)

「ヤコブへの手紙」(2009年、フィンランド)

監督・脚本:クラウス・ハロ
出演:カーリナ・ハザード、ヘイッキ・ノウシアイネン、ユッカ・ケイノネン、エスコ・ロイネ

「フィンランド映画祭2010」(10月30日〜11月5日、恵比寿ガーデンシネマ)で上映。10月31日の上映では、クラウス・ハロ監督と観客の質疑応答も。2011年正月第2弾、銀座テアトルシネマほかで全国順次公開。作品の詳細は映画祭サイトまで。

http://eiga.ne.jp/finland-film-festival/
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