謎めいた流れ者と、名誉を重んじるサムライが、町にやってくる。町を支配するのは極悪非道な暗殺者。残虐なニコラと手下9人だった。流れ者とサムライは町のバーテンと手を組み、ニコラの横暴を止めようとする。
ミュージシャンで俳優のGACKTと、「パール・ハーバー」(01)のジョシュ・ハートネット主演の“ウエスタン・サムライ・ムービー”「Bunraku」。昔なら斬新な作品に光をあてる“ファンタスティック”映画祭に出品されただろう。和と洋のテイストをごちゃ混ぜにした世界を、大胆映像で描く奇想天外な作品である。漫画的で濃厚な色使いが特徴だったウォーレン・ベイティ監督「ディック・トレイシー」、グラフィック小説を映画化したロバート・ロドリゲス&フランク・ミラー監督「シン・シティ」を融合したような映像だ。
アナログ技術を象徴する折り紙や飛び出す絵本を、最新のコンピューター・グラフィックス(CG)技術で描く世界に圧倒される。監督の趣味が炸裂する画は、見ていて飽きない。監督は長編2作目となるイスラエル出身のガイ・モシェ。ミュージカル風の音楽を付けたのは、スパイク・リー監督作品で手腕を発揮するジャズ・ミュージシャンのテレンス・ブランチャードだ。
出演者もユニークで豪華だ。ウディ・ハレルソン、デミ・ムーア、ロン・パールマン。日本からは「キル・ビルVol.1」「ラストサムライ」など、ハリウッド作品で幅広い役柄を演じる菅田俊と、今回が女優デビューの海保エミリ。ウディ・ハレルソンとデミ・ムーアは、「幸福の条件」(93)以来の共演。ほんの一瞬の顔合わせも、オールド・ファンを泣かせる。
物語はいたってシンプル。舞台は拳銃のない別次元の未来。目的を共有する男二人が、親の敵をとるため“ギャングバスターズ”と名乗り、敵に立ち向かう。マカロニ・ウエスタン的世界に、サムライを投入する大胆な発想だ。ハリウッドはこの手の設定が大好き。三船敏郎、チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンが共演した「レッド・サン」(71)なんて作品もある。
何を隠そう、GACKT主演作品を見るのは初めて。彼には一方的に“静”のイメージを持っていた。ところが、英語と関西弁を使い分け、表情豊かに怒りを前面に押し出す。悪役を殴り、蹴り、刀を振り回す。「GACKTって、こんなに動くんだ」。目からウロコが落ちた。全編通して「GACKT、大暴れ」なのだ。ジョシュ・ハートネットもニヒルで腕っ節強く、西部劇に登場するヒーローのよう。華麗なアクションを披露している。
独創的な映像は魅力的だ。「第23回東京国際映画祭」出品作の中でも、異色な1本だろう。映像革命を起こした「マトリックス」通過後、ハリウッドに新たな才能が登場した。再び映像革命が起きるかもしれない。個人的に超お勧めな作品。ぜひ一般公開してほしい。
(文・藤枝正稔)
「Bunraku」(2010年、米国)
監督:ガイ・モシェ
出演:GACKT、ジョシュ・ハートネット、ウディ・ハレルソン、デミ・ムーア
第23回東京国際映画祭出品作品。
http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=237
作品写真:(c)Bunraku Productions, LLC (a subsidiary of Snoot Entertainment)