2010年11月04日

第23回東京国際映画祭「Bunraku」 GACKT、大暴れ 奇想天外“ウエスタン・サムライ・ムービー”

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 謎めいた流れ者と、名誉を重んじるサムライが、町にやってくる。町を支配するのは極悪非道な暗殺者。残虐なニコラと手下9人だった。流れ者とサムライは町のバーテンと手を組み、ニコラの横暴を止めようとする。

 ミュージシャンで俳優のGACKTと、「パール・ハーバー」(01)のジョシュ・ハートネット主演の“ウエスタン・サムライ・ムービー”「Bunraku」。昔なら斬新な作品に光をあてる“ファンタスティック”映画祭に出品されただろう。和と洋のテイストをごちゃ混ぜにした世界を、大胆映像で描く奇想天外な作品である。漫画的で濃厚な色使いが特徴だったウォーレン・ベイティ監督「ディック・トレイシー」、グラフィック小説を映画化したロバート・ロドリゲス&フランク・ミラー監督「シン・シティ」を融合したような映像だ。

 アナログ技術を象徴する折り紙や飛び出す絵本を、最新のコンピューター・グラフィックス(CG)技術で描く世界に圧倒される。監督の趣味が炸裂する画は、見ていて飽きない。監督は長編2作目となるイスラエル出身のガイ・モシェ。ミュージカル風の音楽を付けたのは、スパイク・リー監督作品で手腕を発揮するジャズ・ミュージシャンのテレンス・ブランチャードだ。

 出演者もユニークで豪華だ。ウディ・ハレルソン、デミ・ムーア、ロン・パールマン。日本からは「キル・ビルVol.1」「ラストサムライ」など、ハリウッド作品で幅広い役柄を演じる菅田俊と、今回が女優デビューの海保エミリ。ウディ・ハレルソンとデミ・ムーアは、「幸福の条件」(93)以来の共演。ほんの一瞬の顔合わせも、オールド・ファンを泣かせる。

 物語はいたってシンプル。舞台は拳銃のない別次元の未来。目的を共有する男二人が、親の敵をとるため“ギャングバスターズ”と名乗り、敵に立ち向かう。マカロニ・ウエスタン的世界に、サムライを投入する大胆な発想だ。ハリウッドはこの手の設定が大好き。三船敏郎、チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンが共演した「レッド・サン」(71)なんて作品もある。

 何を隠そう、GACKT主演作品を見るのは初めて。彼には一方的に“静”のイメージを持っていた。ところが、英語と関西弁を使い分け、表情豊かに怒りを前面に押し出す。悪役を殴り、蹴り、刀を振り回す。「GACKTって、こんなに動くんだ」。目からウロコが落ちた。全編通して「GACKT、大暴れ」なのだ。ジョシュ・ハートネットもニヒルで腕っ節強く、西部劇に登場するヒーローのよう。華麗なアクションを披露している。

 独創的な映像は魅力的だ。「第23回東京国際映画祭」出品作の中でも、異色な1本だろう。映像革命を起こした「マトリックス」通過後、ハリウッドに新たな才能が登場した。再び映像革命が起きるかもしれない。個人的に超お勧めな作品。ぜひ一般公開してほしい。

(文・藤枝正稔)

「Bunraku」(2010年、米国)

監督:ガイ・モシェ
出演:GACKT、ジョシュ・ハートネット、ウディ・ハレルソン、デミ・ムーア

第23回東京国際映画祭出品作品。
http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=237

作品写真:(c)Bunraku Productions, LLC (a subsidiary of Snoot Entertainment)
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2010年11月02日

第23回東京国際映画祭 最高賞サクラグランプリに「僕の心の奥の文法」

最優秀アジア映画賞に「虹」 日本映画・ある視点作品賞に「歓待」

「僕の心の奥の文法」のニル・ベルグマン監督(左).jpg 僕の心の奥の文法.jpg

 第23回東京国際映画祭が10月23日から9日間、東京・六本木ヒルズをメーン会場に開催された。コンペティション部門最高賞のサクラグランプリはニル・ベルグマン監督の「僕の心の奥の文法」(イスラエル)、審査員特別賞は新藤兼人監督の「一枚のハガキ」(日本)、最優秀芸術貢献賞は李玉(リー・ユー)監督の「ブッダ・マウンテン」(中国)が獲得。アジアの風部門の最優秀アジア映画賞にシン・スウォン監督の「虹」(韓国)、同部門のスペシャル・メンション賞にウー・ミンジン監督の「タイガー・ファクトリー」(マレーシア・日本)、日本映画・ある視点部門の作品賞に深田晃司監督の「歓待」が選ばれた。

一枚のハガキ.jpg

 「僕の心の奥の文法」のニル・ベルグマン監督は、2002年の「ブロークン・ウィング」での同賞獲得に続き、8年ぶり2度目の快挙。「映画作りで重要なのはプロセスで、賞ではないと言ってきた。ただ、受賞作品はイスラエルでも成功を収め、賞の重要性にも気付いた。自分の映画がどう受け止められているか実感できるからだ。本当にありがとうございました」と喜びを語った。

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 「ブッダ・マウンテン」のリー・ユー監督は「(東京国際映画祭には)初参加。東洋の人たちに共感してもらいたいと思って作ったので、賞を頂いて本当に満足している」とコメントした。

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 「虹」のシン・スウォン監督は「大変苦労して撮ったが、苦労が実った。映画祭の間も次が撮れるか悩んでいたが、賞を得て力がわいてきた。これで満足せず、ますます良い作品を作れれば」とコメントした。

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 「タイガー・ファクトリー」製作のエドモンド・ヨウは「私は東京に住んでいて、この映画は日本とマレーシアの共同作。両国のより深い友好関係に役立てばと願っている。(10月の)釜山国際映画祭で『タイガー・ファクトリー』のスピンオフ映画『インハレーション』が受賞し、うれしいことが重なった」とコメントした。

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 「歓待」の深田晃司監督は「大変驚き、感謝している。俳優とスタッフ、ロケ地の墨田区の皆さんに感謝したい。下町の家にいろいろな人を招き入れる物語は、マルクス兄弟の「オペラは踊る」にヒントを得た。ここ1〜2年、日本に外国からの労働者が入ってきて、知らない文化への恐怖心が排他的な行動となって表れてしまいがち。だが、基本的には夫婦の話として見てほしい」とコメントした。

 コンペティション部門審査委員長を務めたニール・ジョーダン監督は、「審査委員は小さな劇場で作品を見た。素晴らしい体験で、次から次へと見ていると、人間が作っていることを忘れてしまう。選ぶのに大変苦労したが、納得してもらえると思う」と感想を語った。また、審査員特別賞を受賞した新藤兼人監督に、「16歳のころにダブリンで、新藤監督の映画を2本見て非常に感銘を受け、今も心に残っている。当時はまさか自分が映画を作るとは思っていなかった。(新藤)監督の作品が含まれるコンペ部門で審査委員長を務め、賞を贈ることができて幸せだ」と述べた。

 受賞作は次の通り。

<コンペティション>
・東京 サクラ グランプリ 「僕の心の奥の文法」 (監督: ニル・ベルグマン)
・審査員特別賞 「一枚のハガキ」 (監督: 新藤兼人)
・最優秀監督賞 ジル・パケ=ブレネール (「サラの鍵」)
・最優秀女優賞 范冰冰(ファン・ビンビン) (「ブッダ・マウンテン」)
・最優秀男優賞 王千源(ワン・チエンユエン) (「鋼のピアノ」)
・優秀芸術貢献賞 「ブッダ・マウンテン」 (監督:リー・ユー)
・観客賞 「サラの鍵」 (監督:ジル・パケ=ブレネール)

<TOYOTA Earth Grand Prix>
・TOYOTA Earth Grand Prix 「水の惑星 ウォーターライフ」 (監督: ケヴィン・マクマホン)
・TOYOTA Earth Grand Prix 審査員特別賞 「断崖のふたり」 (監督: ヨゼフ・フィルスマイアー)

<アジアの風>
・最優秀アジア映画賞 「虹」 (監督:シン・スウォン)
・スペシャル・メンション 「タイガー・ファクトリー」 (監督: ウー・ミンジン)

<日本映画・ある視点>
・作品賞 「歓待」 (監督: 深田晃司)
 
(文・遠海安)

写真1:サクラグランプリを獲得したニル・ベルグマン監督(左)と主演女優のオルリ・ジルベルシャッツ=いずれも同映画祭事務局提供
写真2:「僕の心の奥の文法」
写真3:「一枚のハガキ」
写真4:「ブッダ・マウンテン」
写真5:「虹」
写真6:「タイガー・ファクトリー」
写真7:「歓待」

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 「映画の森」では今後、東京国際映画祭に参加した監督、俳優らの舞台あいさつ、インタビューなど詳報を掲載します。ご期待下さい。
posted by 映画の森 at 22:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 東京国際映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする