
人はいかにして「戦争中毒」になるか。
デンマークのドキュメンタリー映画「アルマジロ」は、アフガニスタン最前線基地を舞台に、ごく普通の若き志願兵が暴力と殺りくに麻痺していく過程を追う。
2009年。デンマークの空港で、アフガンへ派遣される新兵が家族や恋人と抱き合い、別れを惜しんでいる。まだあどけなさの残る一人が志願の理由を話す。「多くのことを学べる。大きな挑戦で、冒険でもあるよ」
派兵先はアフガン南部の最前線基地「アルマジロ」。デンマーク部隊は英軍とともに、国際治安支援国(ISAF)として治安維持のため駐留していた。すぐ先までタリバンが迫り、いつ戦闘が起きてもおかしくない危険地域。しかし、周辺は一見のどかな農村地帯だ。着いてしばらくは退屈だった。日がな一日パトロール。兵士の一人はこぼす。「つまらない。撃ち合いがあれば違うのかな。早くジェットコースターに乗りたいよ」

撃ち合いは突然起きた。目に見えないタリバンの攻撃に、デンマーク兵はパニックになる。運び込まれる負傷兵。流れる血と飛び交う怒声。撃たれた兵士の目は見開かれ、瞳に恐怖が満ちている。戦闘が長引き、激化するにつれ、若い兵士の間に恐怖が充満する。
しかし最も恐ろしいのは、兵士が死におびえるのと裏腹に、言葉はより過激になることだ。彼らは言う。「アフガンはすさんでいる。まともじゃない。部外者は俺たちをただの人殺しというだろうが、俺は正しいことをやった」「あいつら(タリバン)をガンガン殺しても、もう罪の意識とか感じないかもしれない。野良犬を殺したほうが罪悪感を覚えそうだ」


自らカメラをかついで前線を走り、遺書も書き置き撮影に臨んだヤヌス・メッツ監督。「実戦を経た兵士が戦場へ戻りたがる。まるで中毒だ。彼らはなぜ戦争へ行きたがるのか」。監督が戦場で見た姿はまるで“オオカミの群れ”だったという。
「兵士たちは残虐行為の隠ぺいでも、背中合わせになって互いを守り合う。質問や疑念は押さえつけられ、軍を脅かす者は変り者とみられ、沈黙を強いられる。戦争とは、若者の内面に恐怖と興奮、黒い悪魔を呼び込むグレーゾーンだ」
「アルマジロ」は戦争の現実を描くと同時に、人間のもろさを突き付ける。彼らは自分で人生を選択したと強調するが、大きな力で戦争中毒に「させられている」。挑戦や冒険と引き替えに、彼らが手放したものは何か。「戦争」の二文字がきなくさく飛び交う今、私たちの目をふさぐものは、いったい何だろうか。
(文・遠海安)
「アルマジロ」(2010年、デンマーク)
監督:ヤヌス・メッツ
1月19日、渋谷アップリンク、新宿K's cinemaほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
http://www.uplink.co.jp/armadillo/
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