2021年11月19日

「SAYONARA AMERICA」細野晴臣の初の米国ソロ公演 活動50年、熱気に包まれて

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 2019年に音楽活動50周年を迎えたミュージシャン・細野晴臣。同年行った初の米国ソロライブ映像と、コロナ禍の今年収録された最新トークを収めたドキュメンタリー映画だ。監督は過去にも細野の記録映画「NO SMOKING」(19)を手がけたNHKエンタープライズの佐藤岳利。

 タイトルの「SAYONARA AMERICA」は、細野が活動した「はっぴいえんど」の楽曲「さよならアメリカ さよならニッポン」に、初の米国公演を引っかけたもの。エンドロールでは同曲を細野が新たにカバーし直した「SAYONARA AMERICA SAYONARA NIPPON」が使われている。

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 映画は米国公演が始まる前、会場に並んだ観客のインタビューで始まる。現地のファンが細野の楽曲、アルバムについて詳しく語る姿に驚かされる。セットリストは、細野が愛してきた米国音楽がずらり。さらに「薔薇と野獣」、「住所不定無職定収入」、「Choo Chooガタゴト」、「北京ダック」などの人気曲を、高田漣ら息子世代のミュージシャン4人と披露する。

 ドン・シーゲル監督の映画「ボディ・スナッチャー 恐怖の街」(58)に触発されて生まれた「BODY SNATCHERS」。映画の一場面をバックに、オリジナルの打ち込みサウンドから一転、カントリー・スタイルにアレンジした新バージョンを演奏する。

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 日本人の細野が米国音楽のルーツを、本場で「逆輸入」的にたどっていく。細野はアコースティック・ギターと歌に専念。時々ぼそぼそと英語と日本語で話しながら、ライブを進行していく。細野の一ファンとしては、「キャラメル・ママ」時代に荒井由実のバックで見せていた卓越したベースプレーや、「YMO」の曲も聞きたかったところ。しかし、米国音楽は細野の原点ともいえる。過去の自作曲にはあまり執着がないのかもしれない。

 今年のトーク映像で、コロナ前の米国公演を振り返り「やっておいてよかった」と話す細野。現地のファンと一体になった熱気、高揚感に包まれたライブ・ドキュメンタリーだ。

(文・藤枝正稔)

「SAYONARA AMERICA」(2021年、日本)

監督:佐渡岳利
出演:細野晴臣、高田漣、伊藤大地、伊賀航、野村卓史、ショーン・レノン、バン・ダイク・パークス、マック・デマルコ

2021年11月12日(金)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで、

https://gaga.ne.jp/sayonara-america/

作品写真:(C)2021“HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS ARTWORK TOWA TEI & TOMOO GOKITA
posted by 映画の森 at 13:46 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年11月06日

「ハロウィン KILLS」傑作ホラー・シリーズ最新作 ジェイミー・リー・カーティス40年ごし主演

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 鬼才ジョン・カーペンター監督の傑作ホラー「ハロウィン」シリーズ最新作。前作に続きジェイミー・リー・カーティスが主演し、デビッド・ゴードン・グリーン監督がメガホンを取った。

 ローリー(カーティス)と“ブギーマン”ことマイケル・マイヤーズの40年にわたる戦いは、決着がついたはずだった。しかし、ローリーの仕掛けたわなからマイケルが生還。さらに凶行を重ねていく。

 カーペンター監督「ハロウィン」(78)の40年後を描いた同名続編(18)に続く作品だ。前作に続いてグリーンが監督し、カーペンター監督も原案、製作総指揮、音楽で名を連ねている。製作会社はジェイソン・ブラムが設立したホラー・レーベル「ブラムハウス・プロダクションズ」。

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 「ハロウィン」シリーズの構成は複雑だ。カーペンター監督のオリジナル版の直後を描いた続編「ブギーマン」(81)、番外編「ハロウィンV」(82)、「ハロウィン4 ブギーマン復活」(88)、「ハロウィン5 ブギーマン逆襲」(89)。「ハロウィン6 最後の戦い」(95)ではマイケルの主治医ルーミス(ドナルド・プレザンス)とブギーマンが対決する。続編は量産され続け、プレザンス亡き後に仕切り直しでオリジナル版ローリー役のカーティスが復活。「ハロウィンH20」(98)と「ハロウィン レザレクション」(02)が製作された。一方、ロブ・ゾンビ監督が78年版をリメイクした「ハロウィン」(07)、その続編「ハロウィンU」(09)に、カーペンター監督はかかわっていない。

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 今回の「ハロウィン KILLS」は、オリジナル版の直後から幕を開ける「ブギーマン」と良く似ているが、別の道へ進化しながら突き進む。舞台はマイケルの生まれ育ったハドンフィールド。カーティスは脇に回り、オリジナル版でローリーがベビーシッターをしていたトミーとリンジーが大人になり、娘を殺された警官ブラケットも登場。ルーミスの助手の看護師マリオンも復活。リンジー、マリオン、ブラケットはオリジナル版キャストというこだわりぶりだ。

 精神病院に40年閉じ込められたマイケルが解き放たれ、ハドンフィールドに舞い戻り、殺人を繰り返す。いつものパターンだが、今回は住民たちが立ち上がり、諸悪の根源マイケルを葬ろうと動き出す。平常心を失い暴走する集団心理の危うさが描かれる。

 表向きは暴力性と狂暴性が増したマイケルの殺人鬼ぶり、神秘性が融合したスプラッターホラー映画の王道。しかし、ホラー映画の形を取りながら、社会性を感じさせる作品となった。

(文・藤枝正稔)

「ハロウィン KILLS」(2021年、米)

監督:デビッド・ゴードン・グリーン
出演:ジェイミー・リー・カーティス、ジュディ・グリア、アンディ・マティチャック

2021年10月29日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://halloween-movie.jp/

作品写真:(C)UNIVERSAL STUDIOS

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2021年10月10日

「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」ニコラス・ケイジ×園子温監督 奇想天外の無国籍アクション

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 米俳優ニコラス・ケイジを主演に迎え、園子温監督がハリウッド・デビューを果たした「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」。西部劇と時代劇を合わせたような痛快エンターテインメント・アクションだ。「悪魔のいけにえ2」(86)のビル・モーズリー、「キングスマン」(14)のソフィア・ブテラらが出演している。

 悪名高き銀行強盗ヒーロー(ニコラス・ケイジ)は、相棒のサイコ(ニック・カサベテス)と「サムライタウン」の銀行を襲撃する。しかしあえなく捕まってしまい、フンドシ一丁で手錠をかけられるはめになる。

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 投獄されたヒーローは、街を牛耳るガバナー(ビル・モーズリー)の孫娘バーニス(ソフィア・プテラ)を連れ戻す約束で釈放される。しかし、ヒーローが着せられた特殊なボディスーツには、「5日以内に娘を連れ戻さないと爆発する」爆弾がしかけられていた。

 「ルールを守らないと装着物で爆死」する設定は、「ニューヨーク1997」(81)で始まったアクション映画の定番だ。荒廃した近未来で主人公が救世主に祭り上げられるのは、「マッドマックス サンダーストーム」(85)を思い出させる。往年のB級アクションの定番ネタが随所に盛り込まれている。

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 しかし、期待のケイジは全体に体が重く、精悍さに欠ける。園監督もハリウッドの枠にとらわれたか、切れのよさが感じられない。そんな中、園監督作品でアクションを担当するTAK∴(坂口拓)が目を引く。ガバナーの用心棒・ヤスジロウ(小津安二郎監督へのオマージュか)として登場。監督とともにデビューしたハリウッドで、ケイジを相手に殺陣まで披露する。

 ケイジと園監督が組んだことで、期待値が高くなりがちだ。西部劇スタイルの俳優、派手な着物の女達、鎧かぶとの侍まで入り乱れ、まるでテーマパークを見るよう。日本人なら首をかしげる描写もあるが、監督は妄想のような世界を確信的に描いたのかもしれない。日米の才能が融合した奇想天外なアクション映画だ。

(文・藤枝正稔)

「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」(2021年、米)

監督:園子温
出演:ニコラス・ケイジ、ソフィア・ブテラ、ビル・モーズリー、ニック・カサベテス、TAK∴(坂口拓)、中屋柚香

2021年10月8日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://bitters.co.jp/POTG/

作品写真:(C)2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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2021年09月26日

「殺人鬼から逃げる夜」耳の聞こえない女性、執拗な追跡を逃れ 韓国発新感覚スリラー

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 耳の不自由な女性が、連続殺人犯に追われる韓国発の新感覚スリラー「殺人鬼から逃げる夜」。クォン・オスン監督の長編デビュー作だ。出演は「リトルフォレスト 春夏秋冬」(18)のチン・ギジュ、「コンジアム」(18)のウィ・ハジュン、「ゴールデンスランバー」(18)のパク・フン、「殺人者の記憶法」(17)のキム・ヘユン、「はちどり」(18)のキル・ヘヨン。

 耳の聞こえないギョンミ(チン・ギジュ)は夜の帰宅途中、血を流して息絶えた女性に遭遇。目撃者となったことで、連続殺人犯ドシク(ウィ・ハジュン)の次のターゲットになってしまう。物語はシンプルだが、キャラクター設定がうまい。ギョンミと母(キル・ヘヨン)は聴覚障害者。他人に物を伝えることが難しい弱者で、凶悪犯の格好の標的になる。

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 一方、同じ犯人に襲われ重傷を負った女性ソジュン(キム・ヘユン)の行方を、兄のジョンタク(パク・フン)が探している。ジョンタクは屈強な元海兵隊員。犯人を追い詰める鍵になる。そして冷酷で計算高いサイコパスのドシク。スーツ姿でギョンミに近づき、手を差し伸べて警察に同行。事情聴取にまで同席する。動機不明の殺人鬼を、爽やかなイケメン俳優ウィ・ハジュンが怪演。耳の聞こえないギョンミ母娘と、妹を探すジョンタクが夜の街で交差する。

 ポイントは犯人が執拗に相手を追うことだ。人気のない夜の街で、助けを求めても誰も来ない。犯人の足音も聞こえない。走って逃げる被害者を追い回す犯人。警察の聴取を終えたギョンミを、自宅までついて行き殺そうとする。家の襲撃シーンは、スタンリー・キューブリック監督作「シャイニング」へのオマージュを感じる。

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 もう一つ面白い点は、冷酷な知能犯に挑むのが、妹思いの力強い兄であることだ。妹を助けたい一心で、丸腰で殺人鬼と死闘。さらにギョンミのためにも体を張り、犯人に立ち向かう。意表を突いたクライマックスまで緊張感は持続し、追い詰められる被害者を女優二人が熱演。躍動的な新感覚スリラーに仕上がった。

(文・藤枝正稔)

「殺人鬼から逃げる夜」(2021年、韓国)

監督・脚本:クォン・オスン
出演:チン・ギジュ、ウィ・ハジュン、パク・フン、キム・ヘユン、キル・ヘヨン

2021年9月24日(金)、TOHOシネマズシャンテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

https://gaga.ne.jp/satujinki/

作品写真:(C)2021 peppermint&company & CJ ENM All Rights Reserved.

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2021年09月24日

ゆうばり映画祭、オンライン開催2年目 グランプリに「PARALLEL」

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 「第31回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021」は9月20日、東京・FS汐留ホールでクロージングセレモニーを行い、ファンタスティックゆうばりコンペティション部門のグランプリに田中大貴監督の「PARALLEL」を選出した。映画祭は新型コロナウイルス感染防止のため2年連続でオンライン開催となり、16日から動画配信サービスHuluと映画祭公式サイトで国内外の72作品が上映された。

■グランプリはスプラッター×純愛
 「PARALLEL」はアニメキャラクターのコスプレで殺人を繰り返す男と心身に深い傷をもつ女性の心のふれあいを描く長編。スプラッターとラブストーリーのバランスが絶妙な、ゆうばりらしい作品だ。矢崎仁司審査員長ら5人の審査員が全員一致で推した。

 田中監督は「たくさんの人に支えてもらってできた作品なのでうれしい」とコメント。日本映画の海外進出を支援する新設のフィルミネーション賞とのダブル受賞で、喜びも2倍となった。

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■短編グランプリ女優は2年連続の受賞
 インターナショナル・ショートフィルム・コンペティションのグランプリは、韓国のチョ・チャングン監督の「おそとはキケン」。家から一歩も出ないで過ごしている女性ウェブ小説作家が、出前に来た男性の顔を偶然見たことから、平穏な日常に波風が立ち始めるラブコメディーだ。

 韓国からリモート参加したチョ監督は「感染者が増えた時期に撮影していたので苦労した」と回想。小中和哉審査員長は「ひきこもりだが、お金を稼いでネットで買物をして運動もするという、生活が充実しているキャラクター。とても現代的でユニークだ」と評した。

 主演のイ・テギョンは昨年のファンタスティックゆうばりコンペ部門のグランプリ「湖底の空」に主演しており、2年連続の「グランプリ女優」となった。

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■多彩なプログラム
 スペシャル・プログラム部門ではジャンルを超えた多彩な作品が上映された。俳優・クリエイターとしてマルチに活躍する“ゆうばり常連”の斎藤工は、齊藤工名義で企画・脚本・監督を務めた「ATEOTD」「COMPLY+−ANCEコンプライアンス」を出品した。

 日本映画の中で異彩を放ったのは日本育ちのミャンマー人、モンティンダン監督の「エイン」と「めぐる」。監督は今年2月にミャンマーで起きた軍事クーデターに反対する活動をしていたところ、4月に同国で逮捕され、現在も収監中だという。上映は「めぐる」の宣伝プロデューサーでもあるジャーナリストの北角裕樹さんのメッセージから始まり、北角さんはミャンマー情勢に関心を持ってほしいと訴えた。

(文・芳賀恵)

<受賞一覧>
◇ファンタスティック・ゆうばり・コンペティション部門
グランプリ「PARALLEL」田中大貴監督
審査員特別賞「12ヶ月のカイ」亀山睦実監督
北海道知事賞「愛ちゃん物語♡」大野キャンディス真奈監督
シネガーアワード(批評家賞)「令和対俺」大久保健也監督
フィルミネーション賞「PARALLEL」田中大貴監督

◇インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門
グランプリ「おそとはキケン」チョ・チャングン監督
優秀芸術賞「Ad Lib」ジョセフ・カテ監督
「くっつき村」長谷川千紗監督
「The Bell」恵水流生監督

写真1:ファンタスティック・ゆうばり・コンペティション部門グランプリ「PARALLEL」田中大貴監督(右)
同2:インターナショナル・ショートフィルム・コンペティション部門グランプリ「おそとはキケン」チョ・チャングン監督(右)
同3:作品写真「PARALLEL」=映画祭事務局提供
同4:「おそとはキケン」=同

posted by 映画の森 at 18:47 | Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする