日本を代表する映画監督の一人、大島渚監督。「戦場のメリークリスマス」(83)に続き、「愛のコリーダ」(76)もデジタル修復され、30日から再公開される。
「愛のコリーダ」(76)は、昭和11年(1936年)に起きたいわゆる「阿部定事件」をモチーフに、男女の究極の愛を描いた作品。東京・中野の料亭の仲居・定(松田英子)は、店の主人の吉蔵(藤竜也)に一目ぼれする。妻のある吉蔵も定にほれ、二人は駆け落ち。待合(貸座敷)を転々としながら昼夜を問わず求め合う。やがて行為はどんどん過激になり、ついに定は吉蔵を独占しようと包丁を手にする──。
阿部定による情夫の殺害事件。つまり定が男性器を切り取る性愛を描き、「芸術」か「わいせつ」で大論争を招いた。当時の日本はヘアも解禁されておらず、ぼかしを入れて公開されたものの、場面写真を掲載した書籍をめぐり裁判が起きたほどだ。
話題が先行する形で映画は大ヒットし、米作曲家クインシー・ジョーンズがカバーした楽曲「愛のコリーダ」も注目された。作品は見たことがないが、題名は知っている人も多いだろう。
「阿部定事件」は「愛のコリーダ」以前にも映像化されている。東映のオムニバス映画「明治大正昭和 猟奇女犯罪史」(69)の1編は、存命だった阿部定本人が街頭でインタビューを受けるシーンがある。さらに日活ロマンポルノ「実録 阿部定」(75)、大林宜彦監督「SADA」(89)など、たびたび映像化されてきた。
「愛のコリーダ」は、定と吉蔵の出会い、不倫、旅館に引きこもっての愛欲生活が大胆な性描写とともに描かれる。作中何度も登場する性交場面に目が行きがちだが、松田と藤の存在感が光る。性にどん欲で行為をエスカレートさせる松田の体当たり演技。色気を漂わせ、余裕を見せながら受ける藤がうまい。大胆な性描写の合間に、時おり見せる情緒豊かな演出。一歩間違えばきわものになった作品を、大島監督は芸術の域に引き上げた。
今回のデジタル2K修復では、ぼかしを新たに入れ直し、映像は色乗りがいい。「赤」が際立ち「黒」が引き締まり、シャープになって蘇った。2023年に大島渚監督作は国立機関に収蔵される予定で、今回が最後の大規模上映になる。
(文・藤枝正稔)
「愛のコリーダ」(1976年、日・仏)
監督:大島渚
出演:藤竜也、松田英子、松廼家喜久平、小山明子
2021年4月30日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
https://oshima2021.com/
作品写真:(C)大島渚プロダクション